文化省の創設が求められる背景

1)「今こそ文化省を」

日本社会の変化

今世紀に入り日本社会は大きく変容しています。少子高齢化や過疎化による地域社会の衰退など、社会基盤は大きく脆弱化しています。一方で、グローバル化、デジタル化社会の急速な進展により、仕事の質と内容が変化すると共に、格差社会の問題がクローズアップされています。社会の変化は、文化芸術の創造と享受のあり方、ひいては人々の生活スタイルにも大きく影響を及ぼしています。
こうした中で、人々の生活の質を高め、社会の活力をいかに生み出すかが、重要な課題となっています。

文化芸術基本法の成立

文化芸術振興基本法は2001年、文化芸術振興の理念と、国と地方公共団体の責務を定める、我が国初の根拠法として制定されました。しかし、日本社会の変容に留まらず、国際社会の変化の波はとどまることなく進んでいます。この流れに対し、生活における文化芸術の重要性、すなわち、人と人をつなぎ、仕事と生活に誇りをもち生きる力を創り出し、アイデンティティの確立と地域社会を魅力あるものにする、そのような根源的な力を有する、文化芸術の意議が再認識されようとしています。
文化は人々の生活の中から生まれ、常に人々の生活と共にあり続けてきました。継承、創造、発展の、力強い歴史が、社会のバックボーンとして生き続けてきたのです。さらに、文化芸術は固有のものであると同時に、相互に認め合うことのできる、普遍的な価値を有し、どのような時代であっても、社会を活性化させる力を持つものです。
文化芸術振興基本法の改正により成立した文化芸術基本法は、文化芸術の有する根源的な価値、力を再認識して上で、文化芸術の価値が新たな社会的、経済的な価値を生みだすとの認識の広がりのもと、観光、まちづくりなど他の関連分野も視野に入れ、2017年に実現したものです。

文化庁の京都移転と組織再編、国会での附帯決議

2016年、政府は地方創生の一環として、中央省庁の地方移転を進めるため、文化庁の京都移転の方針を決定しました。文化芸術推進フォーラムは、この移転は文化芸術振興の観点からの検証が不十分であること、とりわけ文化芸術活動と組織の多くが東京を中心にあることもあり、現場から離れることによる政策立案機能の弱体化、文化庁だけが京都移転することによる国会対応の不備、ますます重要となる省庁連携や国際対応の脆弱化など、重大な影響を及ぼすとの懸念を表明しました。
政府はこれに対し、東京と京都で二分化する文化行政機能を強化することを盛り込んだ、文部科学省設置法改正案を2018年、国会に提出しました。この改正案審議のなかで衆参両院の委員会は、文化庁の機能強化を図ると共に、「文化振興施策をさらに発展・充実させていくため文化省の創設を見据え、引き続き文化行政の取組のあり方を検討すること」との附帯決議を行いました。
国会が史上初めて「文化省」への意思を示した、重要な転機となる国会審議であり、決議でした。

2)「文化芸術の振興と豊かな国づくりに必要な司令塔」

脆弱な文化芸術行政に司令塔を

文化庁が文部省の外局として設置されたのは、1968年。教育を扱う省の一機関という位置づけの中で50年が経過しました(文部省は2001年に科学技術庁と統合され文部科学省に)。予算は2001年の文化芸術振興基本法制定を契機に1,000億円台に乗りましたが、それ以降は横ばいが続いています。職員は主に有形無形の文化財、文化芸術、著作権、宗務、国語、国際文化交流などを担っていますが、その幅広い領域に比べ専門職員は少なく、本来、教育や科学技術を専門とする文部科学省出身の職員が配置転換によりその任に当たる例が多くみられる状況です。
「文化」は日々の暮らしや価値観、生き方などに深く関わり、その重要性はグローバル化の時代の中で一層高まってきています。世界の国々も文化行政に力を入れ、国家戦略として取り組むようになっています。
日本でもこうした認識は広がっており、文化外交、文化の国際交流、世界平和の点からは外務省、日本の食文化、コンテンツ、伝統文化を積極的に発信するクールジャパン戦略は内閣府、大きな経済活動につながるエンターテインメント・ビジネスの点からは経済産業省、放送コンテンツは総務省、国宝などの文化財、寺社仏閣や伝統芸能などを観光資源として生かす点からは観光庁と、それぞれの省庁でも文化に関する取組を近年拡大しています。
しかし、そうした動きの中心にあるべき文化庁の行政機能は脆弱であり、他省庁の文化関連施策を主導する力がありません。今こそ文化芸術行政を国家戦略として位置づけ、文化政策の司令塔として内閣を牽引する「文化省」が必要な時です。

文化を扱う政府機関としての司令塔

文化を扱う政府機関としての司令塔 図

文化芸術に関する法律と課題

戦後の復興期には、教育行政の中で文化財の保護に関する法律が再整備され、また図書館や博物館の位置づけが明確化されるなど、いくつかの文化に関する法律が成立しました。

著作権に関しては、1970年に旧著作権法が全面改正されましたが、近年のデジタル・ネットワーク社会の急速な進展は、芸術作品の手段の多様化、利便性の向上をもたらし、経済活性化のため利用促進が優先されています。その結果、クリエーターが公正な報酬配分を得られない状況になっており、芸術の創造のサイクルが脅かされています。著作権法は度々改正されていますが、まだまだ不十分な状況です。

一方、文化芸術全般の振興に関しては、21世紀になるまで法律に明文化されていませんでした。2001年に「文化芸術振興基本法」が施行され、基本理念とともに国や地方自治体の責務が示され、初めて行政が文化芸術を振興する根拠となる基本法が制定されました。

また、演劇、音楽、舞踊、演芸、伝統芸能等、実演芸術の上演の場といえる劇場、ホールについても長年根拠法がありませんでしたが、文化芸術振興基本法の理念のもと、2012年に「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」がようやく成立します。

そして2017年、日本の社会、経済が変化するなか、文化行政がもつ役割への期待を受けて文化芸術振興基本法が改正され、文化芸術そのもののさらなる振興と、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業、その他の関連分野も取り入れた「文化芸術基本法」が制定されました。またこれに対応し、2018年10月から博物館と芸術教育行政が文部科学省から文化庁に移管されましたが、依然として文化庁の機能は時代の要請に十分応えるものになっていません。

文化に関する法律

文化財保護法
1950年施行。1949年の法隆寺金堂火災をきっかけに、有形、無形の文化財の保護についての総合的な法律として制定された。以降、改正が重ねられ、2018年には地域における文化財の総合的な保存・活用について規定。

図書館法
1950年に従来の図書館令及び公立図書館職員令に代わって制定された。公共図書館の行うサービスを規定し、公共図書館に置かれる専門的職員(司書、司書補)の資格について定めている。

博物館法
1952年施行。社会教育法の精神に基づき、博物館の設置及び運営に関して必要な事項を定めている。博物館に置かれる専門的職員として学芸員、学芸員補の資格について定めている。この法律における博物館は、所管地域の教育委員会の登録を受けたものである。

著作権法
1970年に、現行の著作権法が成立。著作権法では、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送を保護するため、著作者の権利及び著作隣接権を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意するために権利の制限や保護期間についても定め、文化の発展に寄与することを目的としている。

独立行政法人日本芸術文化振興会法
2002年施行。独立行政法人日本芸術文化振興会が、芸術家及び芸術に関する団体の行う芸術の創造や普及活動等を援助し、伝統芸能の保存・振興を図ることを目的としている。芸術文化振興基金を設けて助成や劇場運営等の業務を行うことを定めている。

独立行政法人国立文化財機構法
4つの国立博物館、2つの文化財研究所などを傘下にもつ独立行政法人国立文化財機構について定める。

独立行政法人国立美術館法
6つの国立美術館を傘下にもつ独立行政法人国立美術館について定める。

劇場、音楽堂等の活性化に関する法律
2012年、文化芸術振興基本法の理念のもと施行。劇場、音楽堂等の定義を示し、その設置・運営する者と実演芸術団体等、国、地方公共団体の役割と関係者の連携協力を明確にし、国及び地方公共団体が取り組む事項などが定められている。

文化芸術基本法
2001年に「文化芸術振興基本法」として成立。文化芸術の振興に関する基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、文化政策の基本となる事項を定めている。2017年の改正によって、文化芸術の振興にとどまらず、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業など関連政策も取り込むとともに、「文化芸術基本法」に改められた。

3)「世界と日本の文化行政と予算」

世界の文化を所管する省と予算

イギリスの文化政策 図
アメリカの文化政策 図
フランスの文化政策 図
韓国の文化政策 図
日本の文化政策 図

国の文化芸術振興の政策形態は大きく3つに分けられます。
 ① 劇場、美術館、博物館などを国の文化機関として設置運営する施策
 ② 国の政策的な必要性から実施する直接文化事業
 ③ 芸術団体、劇場、映画の組織・プロジェクト理念に基づく自主的な活動への直接助成

以上の3つの政策形態の何処に重点を置くかにより、その国の文化政策のかたちがはっきりしてきます。イギリス、アメリカは直接助成の比重が高く、フランスやドイツなどヨーロッパ大陸の国々は国立文化機関の設置運営の比重が高い構造になっています。また、アメリカは国の予算割合が低く、民間寄付が芸術活動を支えています。

少ない日本の文化予算と特長

文化庁予算と国家予算割合

日本の国家予算に占める文化予算の割合を見ると、2002年に急増した後は、2006年をピークに減少に転じています。また、2017年の文化芸術基本法制定を契機に若干の上向きになっていますが、国の政策における文化芸術の優先順位がまだまだ低いのが現状です。

世界の主要国の文化予算を比べて見ると、金額では1位がフランス、2位が韓国、3位がイギリスとなっており、国民一人あたりの予算、国家予算に占める文化予算全てにおいて日本の少なさが際だっています。

芸術創造助成と文化庁予算の推移

日本は、文化予算の少なさと同時に芸術団体への直接助成の比重が低いことが特長です。近年の政治的課題である観光立国への文化財の活用、国際発信、メディア芸術の振興、こどものための芸術体験などの文化事業は増額が図られている一方、芸術団体への直接助成は減少が続き、実演芸術への助成は文化庁予算全体の6%、映画へは0.5%となっています。これは、文化庁予算が増えないなかで、文化事業を増やした結果、直接助成への配分が減る結果を招いているためです。

日本の文化芸術の特長は、永い歴史のなかで培われてきた多様、多彩な文化芸術の活動、文化財が継承され、今に生きているという点にあります。そうした世界に類をみない日本の文化芸術を支えてきた文化芸術団体への助成は、わが国の多様な文化の継承と発展、新たな歴史となる創造の基盤をつくっていくものです。

東京オリンピック・パラリンピックに向け、文化予算の大幅な増加を図り、その配分バランスについても見直し、芸術家、文化芸術団体の活動を促し、国民の享受機会と世界との交流を創り出し、日本の文化芸術の未来を創る意思決定が求められます。

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